The Dry Fly

#4 アトラクターが失敗するとき


抄訳 『The Dry Fly – New Angles』
ゲーリー・ラフォンテーン=文
東 知憲=訳
中根淳一=イラスト


 私の釣り仲間であるトーリー・ストシックはウルフ、トルード、レネゲードなどを「大っ嫌いだね」と言った。
ビッグホールでこれらのフライが効果を発揮しないのは、私たちが潜ったアバットメント・プールで、ハッチが進行している時だ。連なる大岩によって川は絞られ、水は白く泡立ち、楕円の淵に注いで広がっていく。岸からオレンジ色の石灰岩が立ち上がる15mの絶壁と本流の間には、反転流がゆっくりと巻いている。マスは、速い流れが運んでくるエサを求めて本流と反転流の間に並ぶか、広いバックウオーターをクルージングしてクリップル個体を拾う。

 ハッチの最中でも、まったくライズしない魚というものが存在する。昆虫の流下を認識し、ほかの魚がライズしているのに気づくと、水面での捕食には向いていない、すなわち水底近くでの捕食に適した場所に陣取るのだ。
 ライズする気のないマスは概して大型が多いので、水面まで浮かせてくる価値がある。この手の釣りの秘訣は、ハッチに夢中になってライズしている魚に構わず、フィーディングラインにアトラクターフライを流すことだ。川が深みに落ち込む場所で、魚が水深70㎝くらいのところからライズしているような場合、アトラクターで探るのはもっと深い、1m以上のところだ。淵の流れ込みから3m下でマスのライズが見えた場合、大型を求めるならドンドン流れているところにアトラクターを通す。

 アトラクターフライを、食べ物ではない何かと想定するのは間違いだ。魚にとって、それは食べられるものと認識されなければならない。その物の大きさ、形、色の彩度や明度はあまり見かけるものではないが、マスの生息する環境に発生する生き物として違和感がないことが必須である。 


アトラクターフライは、もう時代遅れなのだろうか? そんなことはない。しかし確かに、前後にハックルを巻いた(ハルフォードが完全無視したような)レネゲードなどを毛嫌いするイミテーション至上主義者は存在する

 アトラクターフライは、トラウトの特定グループにしか効果を持たない。セレクティブでないとしても、すでに水面で一定のリズムを持って捕食している魚にはあまり効果がなく、水底にへばりついている反応の鈍い魚に対しては、ほかのドライフライと同じく効かないだろう。しかしアトラクターは、ライズしたい気があるが、ターゲットを絞りきっていない魚を興奮させることはできる。このグループは好奇心が旺盛で、そんなマスは正確なイミテーション、大雑把なイミテーションよりも変わったフライによく反応する。

 よく晴れたある日、まさに例のアバットメント・プールで、トーリーはそのことを目にした。水中にいた彼は、私たちが投げる#16エルクヘア・カディスと#16のライム・トルードを観察していた。反応する魚の数はエルクヘア・カディスもライム・トルードも同じくらいなのだが、マスがゆっくりとエルクヘア・カディスに浮かび上がろうとする間にドラッグが掛かり始め、口にすることなく沈んでゆくケースが多かった。マスは、ライムのボディーと真っ白いダウンウイングを持ったライム・トルードにはずっと速い速度で反応し、結果としてフライを口にした魚はカディスの場合の2倍。

 しばらくすると、トーリーは数あるアトラクターの秘密のうち、1つを理解したようだった。フライへのライズの速さに気づいた彼は、自分の考えを試してもらいたくなり、浮かび上がってこう言った。「大きさ違いのトルードを投げてみてくれないかな」。 #18と#20のライム・トルードは、#16よりもすこし結果がよく、最後の瞬間の拒絶が少なくなった。より大きなサイズの#14、#12、#10、#8は、アバットメント・プールではその順番で効果が薄れていった。
 私たちは次に、淵の上の白泡帯に移動し、同じ試験をしてみた。日中にマスを引き出したのは#4、#6、#8のライム・トルードで、いちばん魚に受けたのは #6。それよりも小さなサイズはいっさい反応がなかった。




 アトラクターフライ使いの重要点は、魚を侮辱することなく魅了して引き寄せることだ。これを理解しているフライフィッシャーは多くない。ほとんどの人がフライボックスに入れている#12と#14は、実際のところもっとも釣れないサイズなのだ。

 なぜアトラクターフライは失敗するのだろうか? マスが見慣れたものとは違うサイズや形、色調、あるいはそれらの組み合わせを備えたアトラクターは、その違いが小さすぎても誇張されすぎても釣れない。自分がフィールドとするマスの川で実験を行なうための最良の方法は、フライのあらゆる特徴において平均を避けることにある。水の透明度、深さ、速さに応じて、フライのばかばかしさを調整することが大事だ。